スタートアップで金儲けをしないという発想

Loic Le Meurの「スタートアップ成功のための10のルール」 | TechCrunch Japanを読んだ。
この手の「成功のためのnの法則」的な物には今までなびいた事が無かったのだが、これはどうも私の考えに直接共鳴して来たようで、早速印刷してディスプレイの上の壁に貼付けてしまった。
一番最初に「画期的なアイディアを待ってはならない。そんなもは来ない。」と言い切ってしまう所がさすがだと思ったが、一番最後の

金儲けをしようとするな。ユーザのことだけ考えろ。金は成功の結果であって目標ではない。

にも自分の経験に照らし合わせても、これだと思える所が有る。

エンジェルなどから資本金をもらって初めてしまったプロジェクトなどでは、利益を出して還元しなければならなくなってしまっているかもしれないが、例えば自分の貯金でできる範囲で何かをしてみようと思っている節は、とりあえず金儲けよりネット上の「特異点」になる事を目指して自分のプロジェクトを初めてみたらどうだろうか。

今、梅田氏の言っている「自分の好きな事を貫いて生きて行く」という在り方が見直され注目されている様だが、今自分のやりたい事で起業するか、このまま今の会社に残るかと言う点で考えている人はたくさんいると思う。ただ、起業となると、利益が出るまでに至らなかった状況に対する恐怖というのは拭えないというのが本音ではないだろうか。

私の考えだが、この先すぐに終わってしまう訳ではない人生を考えると、利益を出すばかりが自分のやりたい事を貫く目標にはならないのではないかと思う。それより自分のやりたい事を貫いて何かを成し遂げ、出来上がった物でも、その過程を通じた同志とのコミュニケーションにおいてでも、人の注目を集めるだけで、十分成果が出ていると考えられないだろうか。

私事で恐縮だが、私がFireDictionaryを作った時には商売の事など何も考えていなかった。ただ、Firefoxの拡張可能ブラウザというその可能性だけに引っ張られるようにしてFireDictionaryの開発を始めた。
未だに利益の出るような代物ではないが、私の実感として得たものは、

  • 6000人超のユーザ
  • 海外からの少なくない問い合わせ
  • オープンソースのプロジェクト開発に関する経験
  • 今の仕事

が挙げられる。
この一番最後の今の仕事というのは、留学先だったPrince Edward Islandでの仕事なのだが、この島は非常に小さく、冬になると殆どのビジネスが閉まってしまうような小さな町で、現地のカナディアンでも定職を見つけるのが難しいと言われているような場所なのだが、そんな場所でも仕事を見つける事ができたのは、留学中に完成させたFireDictionaryを面接の場で自分のノートパソコンで見せてプレゼンをした事が就職に繋がったのではないかと思っている。
そしてその結果得られた物は、

  • 定時以降の自分の時間

だ。
りもじろう氏も仕事は7.5時間で終わらせる : 住みたいところに住める俺で指摘しているように、カナダ(北米)での生活のリズムはこれが普通なのだ。このリズムに乗れたおかげで、今こうして毎日自分の興味の有る事(今はRuby)を勉強する事ができるようになっている。

そう考えると、直接利益を出す事ばかりがやりたい事を貫く動機にはならないのではないだろうか。
私の場合、FireDictionaryを開発していた時期はまだBlogを初めていなかったのであれだが、今思うともしblogを初めていたなら、それ上でのコミュニケーションを通じて得られるネットの向こう側での人間関係は、この先自分の人生を大きく軌道修正するに値するメリットになったのではないかと思う。
そして何より、それは私のケースのように次の就職活動にさえ良い方向に働くのだ。

先ほどネット上での「特異点」になるという言い方をしたが、長期的な視点で考えた時にそれは、自分の人生にとって短期的な利益よりも掛け替えの無い物になる可能性を孕んでいるのではないだろうか。そう考えればもっと前向きに自分のやりたい事にアプローチして行けるのではないかと思った。

参考:
梅田望夫×まつもとゆきひろ対談「ウェブ時代をひらく新しい仕事,新しい生き方」(前編) | 日経 xTECH(クロステック)
梅田望夫×まつもとゆきひろ対談「ウェブ時代をひらく新しい仕事,新しい生き方」(後編) | 日経 xTECH(クロステック)